サラリーマン風の男が、
「僕の腕知りませんかー」「僕の腕知りませんかー」
と甲高い大声を上げながら、ホームを行ったり来たりしている。
ちらほらとまばらにいる他の乗客は無視しているのか、男を見ようともしない。
左右どちらだったか思いだせないのだが、男は片腕がないようだった。
スーツのアームホールがひらひらとたなびいていた。
男から目を離し携帯を見ている間にどこかにいってしまったのか、男の声は聞こえなくなった。
電車到着の放送が流れ、ホームに向き直すと、
耳元で「知りませんかあ?」。
男の顔が俺の顔のすぐ横にあった。
俺は腰を抜かしそうになった。
パァーッと警報が響き、直後に電車がホームに入ってきた。
よろめいた俺は白線の外に出てしまっていたようだ。
一瞬のことだった。
しかし、消えてしまったかのように男はいなくなっていた。
男の吐息が耳元に残っている。絶対に気のせいではない。
回りの視線がちょっと気になったので、電車は一本見合わせた。
ホームをよく見て回ったが、男の姿はなかった。
以来その男は見ていない。
引用元: ・ほんのりと怖い話スレ 136
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